タクシー乗り場でタクシーの長い列。もうかれこれ1時間も並んでいる。前に並ぶのは個人タクシー。ロング客の期待を胸に、いよいよ前の個人タクシーに順番が回ってきた。しかし、乗った乗客はすぐに降り、こちらの車に乗り込んで来た。
「近いからって、断られたよ。長い時間待った意味がないとまで言われたよ」
と憤慨の様子であったが、流石にこちらも
「私も長い時間待ったんですが……」
なんてことも言えない。乗客には何も関係ないことだが、個人タクシーの近くにいると時々このようなことがある。
車の天井にある「提灯」「でんでん虫」の行灯を毛嫌いする人は少なくない。その行灯が象徴的なのが個人タクシー。高級車や個性ある室内を施したりと法人タクシーと一線を画しているが、タクシー乗り場などに並んでいると個人タクシーを避けて乗ってくる人や目の前を走る個人タクシーを見過ごし法人タクシーに乗る人がいる。
このような乗客のほとんどが、個人タクシーに乗って嫌な思いを経験している。
・近い距離だと断られた
・態度が横柄
・遠回りされた
・無愛想すぎる
・万札だして怒鳴られた
・根掘り葉掘りプライバシーを詮索された
他にも「聞きたくもない歌を永遠と聞かされた」などなど。
しかし、個人タクシーのドライバーのすべてがすべてということではない。素晴らしいドライバーも沢山いるし、法人タクシーのドライバーにもこのようなドライバーはいる。あまりいい印象をもっていない人が多い個人タクシー、果たしてどうなのか。
◆個人タクシーはエリート中のエリート
正直、タクシー会社に勤めようと思ったら、運転免許と健康な身体さえあれば、誰でも出来る。しかし、同じような感覚で「個人タクシーでもやろうかなぁ」と思っても、そう簡単になれるものではない。なるには最低以下の条件をクリアしなければなることはできない。
タクシー会社に10年以上勤務し、なおかつ10年間無事故無違反であることが条件となる。(これは35歳未満の場合。年齢が上がるかにつれ緩和される)毎日のように運転して無事故無違反は、なかなか至難の技。これだけでもかなり高いハードルだが、開業するにあたっての資金も必要となってくる。
営業区域により異なるが、設備資金で約70万円以上、運転資金として約70万円以上合わせて140万円を用意することが絶対条件である。また、タクシー協会に入会するのであれば、預貯金口座の200万円以上の預金があること証明する必要もある。そのため、最低限200万円は申請に必要である。
これで晴れて個人タクシーになれると思っても、そうは問屋が卸さない。
個人タクシーを開業するには、許可を受けなければならない。その許可には新規許可と譲渡譲受許可があるが、新規許可の制度に関しては様々な規制等のために現在は募集しておらず(営業区域によるが東京ではしていない)、譲渡譲受許可のみでしか個人タクシーになることできない。
その譲渡譲受許可とは、個人タクシーを閉業したドライバーから営業権を譲渡してもらうことで、いわば、大相撲の親方になる為の年寄株と同じように引退や廃業した人から権利を譲り受けるものである。
したがって要件を満たしていてもすぐに個人タクシーにはなれない。順番待ちということもあるのだ。個人タクシーの道はなかなか険しい……。
なりたくてもなかなかなれない個人タクシー。世間で毛嫌いされている個人タクシーは、実はタクシー業界ではエリート中のエリートなのだ。
◆なぜ個人タクシーのイメージは悪いのか
個人タクシーは、個人事業主でいわゆる社長業である。法人タクシーでは売上の50~60%だった取り分が全て自分のもの。しかし、いい面ばかりではない。法人タクシーとは違って、駐車場、燃料費、保険料などの経費諸々も自腹となる。また、クレームの対応や書類作成も今まで会社がやってきたものは、すべて自分でやらなければならない。個人タクシーは、群から離れた一匹狼となる。
「個人タクシーは、我々の代弁者だ!」
と擁護する法人ドライバーもいる。
言いたくてもクレームを恐れて何も言えない法人ドライバー。会社という傘があるばかりに何もできない。クレームが入れば個人のペナルティーはもちろんだが、会社の評価も落とされる。クレームに怯える日々である。しかし、その反面、乗客にしてみれば、個人タクシーには挙げた手を下ろす場所がない。クレームの捌け口がない。個人事業主である個人タクシー。クレームを訴えるところがないもどかしさからこのような風評があるのではないか。
短い距離だから、万札しかもっていないから、言うこと聞いてくれなそうだからと、今まで経験や風評を気にして敢えて個人タクシーを避ける人がいるなか、個人タクシーのドライバーは、その世間の風評を上手く使い効率的な営業をしているかもしれない。
個人タクシーのファンの人もたくさんいる。そして、個人タクシーは多くの特定のお客を抱えている。タクシー業界ではリスペクトされる存在である。
【二階堂運人】
物流ライター。ライター業の傍らタクシードライバーとして東京23区内を走り回り、さまざまな人との出会いの中から、世の中の動向や世間のつぶやきなど情報収集し発信する。また、最大手宅配会社に長年宅配ドライバーとして勤務した経験とネットワークを活かし、大手経済誌のWEB版などで宅配関連の記事も執筆する。タクシー・宅配業界の現場視点から、「物」・「人」・「運ぶ」・「届ける」をそれぞれハード(荷物・人)だけではなく、ソフト(心と気持ち)の面を中心に記事を執筆中。ブログ「吾は巷のインタビュアー!」
(出典 news.nicovideo.jp)
<このニュースへのネットの反応>
態度が横柄なのはあるな。煽りに近いレベルでクラクション鳴らす奴が結構いるんだこれが。
考えようによっては、客とサービスの提供側が対等であるという本来あるべき姿とも言えるな。日本人の視点だと受け入れられにくいだろうが。
タイトルと内容で特に紐解かれていない気がするのだけど… 取引内容に不満があれば契約しないのは双方の権利だし全くその通りだけど、エリートだの内輪でのリスペクト云々は無関係じゃないかな?
なるほど。わざと横柄にふるまっている可能性もあるか。それでも商売が成り立つなら客を選ぶのは賢い営業の形かも知れんし、みんな「万札だけ持ってタクシーに乗る」のを避けるようになるかもしれんもんね
クレームを訴えるところがないのは「もどかしい」んじゃなくて「不安」なんだよ。法人タクシーなら車内でトラブルがあっても組織全体で情報が適切に共有されて法の下で解決してくれる安心感があるが、個人タクシーだとどこの組織にも属さない一匹狼と狭い車の中で二人きりなわけで、もしそいつがヤクザもどきの悪質な運転手なら、こちらの不満や被害を不当に握り潰してくる恐れがある。
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