福島原発事故の民間事故調で大きな話題を呼んだシンクタンクが緊急出版した『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』(ディスカヴァートゥエンティワン)が話題になっている。19名の専門家が日本政府の責任者など83名にインタビューした報告書の書籍化だ。そこで見えてきた「日本モデル」の正体を、同臨調の共同主査、塩崎彰久弁護士が明かす──。

■83名の政府・自治体政策当事者が語ったこと

新型コロナ対応民間臨時調査会(コロナ民間臨調)による政府のCOVID-19対応の検証を行う過程で、合計83名に上る政府・自治体の政策当事者等の証言から明らかになったのは、わが国のパンデミックへの備えの甘さ、さらには危機に備えることの難しさでした。

日本国内で近年、最も大規模な感染症危機対応オペレーションが実施されたのが2009年新型インフルエンザパンデミックでした。当時、危機対応にあたった関係者らがまとめた「新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議報告書」には、PCR検査体制の強化、保健所等の感染症サーベイランス体制強化、感染症危機管理にあたる人員体制の大幅な強化など、次のパンデミックへの備えとして数々の重要な提言が挙げられていました。

しかし、今回の検証を通じて、これらの多くの提言が棚ざらしにされていた実態が明らかなりました。

■「パンデミックといってもこの程度か」

その理由につき問うと、厚労省自治体の関係者らは、2009年新型インフルエンザは病原性が低く、結果的に日本の死亡率も他国と比較して低かったために、政府・自治体関係者や国民の間で危機意識が十分に高まらず、パンデミックといってもこの程度か」という認識が広まってしまったと反省を述べました。

なお、2015年には、韓国でMERS中東呼吸器症候群)の大規模アウトブレークが発生しましたが、結果としてMERSは日本まで拡散しませんでした。韓国などがMERSの経験を通じて検査体制の強化を図る中、われわれがインタビューした政治家厚労省の関係者は、「非常に緊迫したが、対岸の火事で終わってしまったことが反省点」「学ぼうという姿勢がなかった」などと、危機に備える機会を逃したことを悔やんでいました。

今回のような本格的なパンデミックの到来は、政府にとっては想定外でした。そしてこうした備えの甘さが、政府対応の足を引っ張り、対策の選択肢を狭める結果となりました。

■わずか300件/日のPCR検査能力

国内で感染が広がり始めた2月上旬、国内でのPCR検査分析能力は1日あたりわずか約300件程度でした。

実は当時、感染症の専門家達の間では、すでに無症状の病原体保有者にも一定の感染リスクがあることは認識されていました。しかし、検査能力が限られる中、無症状者などを含め検査対象を広く設定すれば、検査希望者をさばけなくなることは明らかでした。

結局、厚労省は、検査対象を高熱に加え、呼吸器症状を併発しているなど特に重症リスクのある患者に限定する方針を採用しました。

しかし、検査対象を絞り込む方針を採用した結果、医師が必要と判断しても、なかなか検査を受けることができない状態が続くなど、国民の不満と不安は拡大することとなりました。

■強いられた、苦しい「二正面作戦」

安倍晋三首相(当時)は、総理連絡会議等の場で厚労省に対していら立ちを込めて繰り返し検査件数の早急な拡大を求めましたが、検査件数は3月末でも1日1700件程度(週平均)にとどまり、諸外国に比べて著しく見劣りのする水準にとどまっていました。

4月3日には、同盟国である米国の在日米国大使館が「日本はウイルスの検査を広く実施せず、感染状況の把握が難しくなっている」として、日本に滞在している米国人に対して速やかな帰国を促すなど、日本の感染症対策に対する海外からの視線も厳しいものとなっていきました。

検査体制の備えの甘さが足を引っ張る形となり、その後も厚労省は、検査キャパシティ拡大へ政策努力を続けながらも、急速な検査拡大を求める世論の火消しに奔走する、苦しい「二正面作戦」を続けることとなりました。

■手書き用紙とFAXによるサーベイランス(感染把握)

政府がPCR等検査の結果等を適時かつ正確に把握することができなかったことも、政府対応の足かせとなりました。

感染症対応の現場では、新型コロナウイルス感染者が確認された場合、医療機関から保健所へ手書き用紙のFAXで報告を行い、届いたFAXを保健所職員がNESID(National Epidemiological Surveillance of Infectious Disease:感染症発生動向調査)と呼ばれるシステムに手入力するというアナログな作業が続けられていました。

そのために、リアルタイムで全国の感染症情報が共有されず、週報や月報ベースでしか共有されない地域もあるなど、政府による感染状況の把握を著しく困難で非効率なものとしました。

■前提情報を欠く中での政策判断

また、陽性者数の増加に伴い、発生届を手書きで記入してFAXで送信する業務が医師の負担となり、また、医師からFAXにより受けた発生届の内容をNESIDに入力する業務が保健所の負担となり、対応の遅れにつながっていきました。

このように、そもそも従来の感染症法上のサーベイランス体制においては、大量に検査を実施することが想定されていませんでした。そのため、政府が全国的な感染拡大状況を適時かつ正確に把握することができず、様々な政策判断の前提となる情報を欠く中で危機対応を強いられることとなりました。

ある政府高官は、感染症の性質や正確な感染状況がつかめなかったコロナ対応の初動について、「何が起きているのか相手が見えない。目隠しの中での対応だった」とその危うさを振り返りました。

■削られ続けた感染症対応の人員体制

2009年の総括会議の報告書には、感染症危機管理に関わる体制の強化のために、国立感染症研究所、保健所、地方衛生研究所などの組織や人員体制の大幅な強化が提言されていました。しかし、度々感染症拡大の危険にさらされながらも、幸運にもこれらを水際で食い止めることができたため、日本国内では感染被害は広がりませんでした。

パンデミックへの警戒が次第に薄れる中、行政改革による定員削減圧力の中で、感染症危機への備えの予算は削られていきました。感染症危機対応の公衆衛生的な対応の中核を担う国立感染症研究所でさえ、その定員は、2009年2010年の2年間増員となったあとは年々減少をたどっています。

現場で感染症対策の実務を担う保健所の職員数も「定員削減の財源みたいなもの」(内閣官房幹部)として扱われ、年々削られてきました。厚労省幹部はこうした実態に、「喉元を過ぎると熱さを忘れてしまった」と反省の弁を述べました。

■感染症対策部門は「予算削減の対象になりやすい」

毎年厳しい予算削減圧力が各省にかかる中、予算編成の手続きの過程で関係業界など声の大きいステークホルダーを抱える部局の予算がどうしても優先される一方、感染症対策のような分野は人事・財政当局からの行政改革圧力に抗するすべがなく、予算削減の対象となりやすい側面があることは否定できません。

しかし、感染症のように、発生頻度は低くともいざ発生すれば国家的な危機に発展する可能性のある「テールリスク」への備えについては、こうした省内力学による調整に委ねることは適切ではありません。

こうした指摘について、厚労省幹部は、めったに起きないパンデミックのような危機に対して、常時備えておくべき「コアキャパシティ」と、非常時にだけ起動する「サージキャパシティ」を組み合わせることにより、「効率と迅速さをバランスさせていかなければいけない」と述べ、備えのあり方を見直す必要があることを認めています。

■短期の緊急事態宣言しか想定していなかった特措法

今回、感染症対応の法的基盤となった新型インフルエンザ等対策特別措置法の建て付けも、本格的なパンデミックへの備えとして十分かは、慎重に検証する必要があります。

長期間にわたる外出自粛や休業要請により企業や家計への負担が蓄積する中、強制力や補償措置を伴わない現在の法的枠組みだけで次の流行に対応できる保証はありません。内閣官房幹部も「背に腹は代えられない状況になったら、次はもう効かないだろう」と、これまでのソフトロックダウン手法の限界を認めます。

もともと2012年の通常国会において新型インフルエンザ等対策特別措置法が法案審議された際にも、罰則や休業先への補償の要否に関する議論はありました。

当時、要請や指示を受けた者がこれに従わない場合の罰則の定めがない理由について問われた中川正春内閣府特命担当相は、「公表を通じて利用者の合理的な行動が確保されるということを考え方の基本にしております」と答弁し、国民が要請や指示に応じない事態は基本的に想定していないことを明らかにしました。

また、施設使用制限の対象となった事業者に対して補償が必要ではないかとの問いに対しては、「使用の制限等に関する措置については、事業活動に内在する社会的制約であると考えられることから、公的な補償は考えておりません」と答弁しています。

■感染流行の長期継続は「想定外」

今回、緊急事態下における政府の広範な裁量による私権制限については、野党や日弁連などから強い警戒感が示されていたこともあり、政府は私権制限を必要最小限の範囲にとどめることを繰り返し強調しました。

しかし、法案制定当時の整理では施設使用制限等の措置はあくまで一時的なものであり、「その期間も1週間から2週間程度に限定されたもの」と想定されていたことには注意が必要です。

国会審議を見る限り、今回の新型コロナウイルスのように緊急事態宣言が長期にわたり、また、感染流行の波が繰り返し押し寄せるような事態は想定外であったと言わざるを得ません。

■「最悪のシナリオ」を想定できるか

危機への備えは常に困難を伴います。発生確率の低い重大害悪を想定した「最悪のシナリオに備えることは、組織にとっての不都合な真実を明らかにしかねない難しい作業となります。

いたずらに関係者の不安を招来しないか、組織の対応の不備を明らかにして非難を受けないか、明らかになったリスクに対応するだけの予算はあるのか。重大リスクを「起きるはずがないもの」や「想定外」として取り扱う誘惑は尽きません。

また「最悪のシナリオ」をきちんと想定できたとしても、その想定に従って必要な備えを行うこと、備えを維持することもまた、決して容易ではありません。

われわれは皆、「喉元を過ぎると熱さを忘れてしまう」習性を抱えています。危機感は、次第に薄れていくであろうことまでもあらかじめ想定し、近視眼的な効率化要求に耐えうる継続的な監視体制や執行体制を確保することもまた重要なポイントとなります。

■「学ぶことを学ぶ責任」

パンデミックへの備えの強化は遠い未来の話ではありません。

今冬にも、新型コロナウイルスの次の流行がやってくることが予想されている中、これまでの対応を検証し、そこから学び、次の流行への備えにそれぞれ活かしていくことは、政府・民間を問わず、われわれ一人ひとりに課せられた責任でもあります。

日々感染症対応に追われる政府がまだ自ら振り返って検証する余力に乏しい中、政府から独立した立場で検証を行ったわれわれの報告書が、多くの人に「次への備え」についての議論を深めてもらうきっかけとなることを願っています。

同じ危機は、二度と同じようには起きない。
しかし、形を変えて、危機は必ずまたやってくる。
学ぶことを学ぶ責任が、私たちにはある。
コロナ民間臨調 調査・検証報告書 第4部総括より)

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塩崎 彰久(しおざき・あきひさ)
新型コロナ対応民間臨時調査会・共同主査 弁護士
長島・大野・常松法律事務所パートナー弁護士オリンパス事件やタカタ製エアバッグの世界的リコールをはじめとする数々の企業不祥事の解決に携わるほか、福島原発事故独立検証委員会の調査に参画する等、多くの危機管理コーポレートガバナンス案件に関わる。2017年アジアの専門誌が選ぶCompliance/Investigation Lawyer of the Yearに選出。共著書に『日本最悪のシナリオ 9つの死角』(新潮社)、『民主党政権 失敗の検証』(中公新書)、翻訳書に『トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」』(講談社)などがある。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Easyturn


(出典 news.nicovideo.jp)


<このニュースへのネットの反応>

長々した文章だけど法律屋に感染症対策がナンタラカンタラ言われてもなぁって言う


政府が最悪のシナリオを想定して過去に何度も緊急事態での罰則付き行動制限規定を提案しても自称人権派の市民団体や野党政治家、あと日弁連なんかが反対したからあの程度の緊急事態宣言なんですけどね?


「短期の緊急事態宣言しか想定していなかった特措法」「長期の感染拡大は「想定外」」だったら緊急時に政府が強権発動できる法律を作らせろ、邪魔してるのは日弁連だろ。何でそれで弁護士が「政府の対応が甘い」だとか意味不明なこと言えるんだ?


「政府の対応がきびしい」「政府の対応が甘い」どっちもどこぞのマスメディアが取り上げた記事ですが たしかに2正面作戦ですな


政府が頼れないというのなら政府に頼らずに自分で治したらどうですかね そうすりゃ助ける側もだいぶ助かるんだけどな


誰が金すら出ない要請実行するの。議委員も公務員たちも給与減ることない奴の要請なんて事項しない。言うのなら「一人100万円だすから家から出るな」だろう。休んでいる間のサービス業・宿泊業・飲食店・商店たちはどうするのだよ


手書き用紙とFAXの件なんだけど、外国じゃ「Excelの欄が足りなくなったので記録漏れが発生し、状況が把握できなくなった」なんて話もあるわけでね。記録媒体の点だけを見て批判するのはどうなのかなぁ。まあExcelは英国の話なんですけどね?


一月下旬に早急に入国渡航禁止にしたらしたで文句言うのにな


早期に対応したら根拠だせそんなことを今やる必要があるのかって叩いたくせに?具体的にいうと感染拡大前の学校の休学措置とか野党こぞって叩いたよね?というか感染症対策もだが未来への投資やもしもの対策は無駄という名で減らされる傾向にあるのが問題よな。民主時代の事業仕分けとか最たるものだったが


売国弁護士やプレオンのような反日マスゴミが、散々人権人権と叫んだせいで、緊急事態宣言で、海外のように完全なロックダウンが出来なかったというのに、マスゴミが何他人事のように語っているのか。


「マスコミの扇動」も加味してくれよ。 朝10時にスーパーに並ぶ、マスク買い占め老人を毎日毎日タレ流して、スーパーに殺到させ、そこでコロナ大感染させ、アベ政権を叩こうとしてた、テロメディアも。


ロックダウンは法的に不可能だったと記憶してるが、何で左巻きのせいになってるんだよ。都合よすぎねえか?


新型コロナ対応民間臨時調査会・共同主査 弁護士> この肩書だけでもうお察し


現場の医師はPCR検査はいたずらに増やすべきではないと言っているのに増やせとばかり騒いでいるマスゴミをどうにかしないといけませんね。


なんで、そんなに偉そうなの?


専門外の弁護士ごときが書いたものがなんの参考になるんですかねぇ?


なんか、「覚えてろよ!」とか啖呵切ってるみたいww。


こういう記事って功績の方には絶対触れないよなぁ 今更忘れてるのか意図して触れないかわからんけども政府は対応クッソ速かったし結局私権制限をほとんどせずに乗り切ったこととかは功績とされてもいいと思うんだが


てめーらもちょっとは反省したら?現在進行形でデマ垂れ流してるくせに、他人の文句ばっかりだけどさ。


誰に向けたメッセージなの? これ?


悪役の捨て台詞みたいだww。


今のところ日本では何故かコロナ抑えられていますが、次も考えてきちんと対応を検証していかないといけませんね。


日本はダメだ!その点中国や韓国はすばらしい!とか抜かしてる*なメディアを何と*る必要があるんじゃないですかね?


この弁護士はBCPって言葉を知っているのかな?どうして重症患者に的を絞ったと思っているんだ?


プレジデントがそう言うんだから「次も大丈夫」と言う事か、、、


普通に国民一人一人がしっかり感染予防をすればいいだけ。だから感染していない人間の方が多いんだよ。疎かでいい加減な奴らが感染している


ウイルスの専門知識も無く憶測や推測で第三者を扇動するのは法律的見解からどう思いますか?それとも思ったより武漢ウイルス広がってないから新種の武漢ウイルスでもばら撒くんですか?


対策とっていたのに日本と変わらない国よりましだと思いますけどね、どこのk国とはいいませんが、そもそも対策とってなければ抑えられないマニュアル国より、突発的な問題を対策をとっていなくても、そこそこ対応できる臨機応変な国のほうが大事だと思うね。


そもそも100%は無いんだよ!ひろゆきが散々フランス政府を素晴らしいと言ってたが今になって経済崩壊寸前まで陥ってデモが盛んにおこなわれ感染も拡大!フランスだけではない。他の国でも経済を止めた国はことごとく致命傷になりつつある。中国を除いてな。中国の感染0が本当ならコロナを研究してたのは事実だと思う。それに先のことも考えず自画自賛の韓国は日本がうらやましくて


マスコミと結託して日本経済を破壊しようとしてるとしか思えん!


はぁ・・・マスクもソーシャルなんとかも既に忘れ去られている発展途上国では感染爆発も死者の増加も超過死亡すら無い。もう記事の内容もコメント欄も中身が無茶苦茶だ、全く科学的じゃない。本来は遺伝子研究目的のPCR検査にずっとこだわって、病気の判定にスタンダードな抗原検査がなぜ行われないのか?もう、いい加減におかしいって気付こう。


PCRとか、まだ言ってるwww


普通に国民一人一人がしっかり感染予防をすればいいだけ。<=ソレな。「予防に勝る対策なし」とは、よく言ったものよね


次来る強力に進化したヤツには、こんな生ぬるい対応じゃダメだろうとは思うが...


PCRで直るのか?そもそも小学生以下は感染しても重症率0だよ。若者ほど感染しても症状が出なかったり軽度ですんでるだからこそ、若者はコロナ前みたいに東京に集まる。最近では路上ライブやってる奴もいる。野外ならいいのか?芸能人の感染も止まらんがテレビ局は相変わらず地方ロケ行ってる。安倍の事よく言えたよな。本当は理解してんだろコロナ前には戻らないと言う本当の意味を!