本日8月15日は終戦記念日である。ここでは、この日に観るにふさわしく、そして現代にも通ずる普遍的な問題も関わる、第二次世界大戦にまつわる出来事を描いた映画を、5作品に絞って紹介しよう。

◆1:『日本のいちばん長い日』(1967)

 1945年8月14日正午の会議から、翌日の15日正午に玉音放送がされるまでの24時間を追ったサスペンスドラマだ。圧倒されるのは、その“熱量”。登場人物たちの衣装や顔には汗がにじみ出ていて、口から唾を飛ばし、怒鳴りまくり、己の正当性を訴えるために奔走する。クーデターを起こそうとする青年将校、冷静ではいられなくなる政府高官たち、それぞれの思惑と行動は熱気に満ちている以上に狂気的でもある。

 決定的な時間が差し迫っている中、巨大な問題に立ち向かい、火花を散らし合う極限状態の人間たちの姿は、エンターテインメントとして圧倒的に面白く、2時間半超えの上映時間であっても全く退屈することはない。歴史の裏にあった文字通りに命がけだった彼らの行動を追いながら、「一歩間違えば、この時に終戦を実現できなかったかもしれない」という“あり得た歴史”を考えてみるのもいいだろう。後の『シン・ゴジラ』(2016)にも強い影響を与えた、パワフルな映画の醍醐味を堪能できる名作中の名作である。

 なお、本作はAmazonプライムビデオで現在見放題であり、同サービスでは同じく岡本喜八監督作品の『独立愚連隊』『独立愚連隊西へ』『殺人狂時代』『激動の昭和史 沖縄決戦』もラインナップに入っている。そちらも合わせて観てみるのも良いだろう。岡本監督の良い意味での極端でクセの強い作風、そして画面から伝わる熱気は、今観ても鮮烈なものとして映るはずだ。

◆2:『海辺の映画館 キネマの玉手箱』(2020)

©2020「海辺の映画館―キネマの玉手箱製作委員会/PSC

 こちらは現在劇場で公開中の映画であり、4月10日に亡くなった大林宣彦監督の遺作であると同時に、その集大成的な作品となっている。カラフルというよりもビビッドな配色、合成で作られた摩訶不思議な舞台、早いカット割りで怒涛の勢いのセリフと情報が繰り出されるといった独特すぎる作風は、大林監督作品を観たことがないという方にとって(観慣れている人でも)びっくりしてしまうことは必至だ。今回は劇中で「映画とはそもそも不自然なものなのだ」という言及すらあり、巨匠が最後に一切の遠慮をせずに、己の作家性を全開にした映画を作り上げたことがわかる。

 物語は、閉館を目前にした映画館オールナイト興行で“日本の戦争映画大特集”を観ていた3人の若者がスクリーンの世界に入ってしまい、戊辰戦争日中戦争沖縄戦、そして原爆投下前夜の広島など様々な戦地を体験するというもの。映画の中に入って冒険するのは『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993)のようであり、同じ俳優がそれぞれの時代で違う役を演じているのは『クラウド アトラス』(2012)のようでもある。戦争の愚かさや残酷性は、その戦争の歴史と共に進歩を続けていた映画でこそ表現し得るという、大林監督の矜持も感じさせる。

 事実、大林監督は本作について「これはキネマ(映画)の持つ途方もない愉しさと、そこから学び得る歴史の悲しみを、我々の想像力によって無限に味わいつくそうと仕組まれた、超娯楽作の1本」であると語っている。出来上がったのは、約3時間という上映時間をたっぷりと使った、SFやミュージカルやラブストーリーはたまたエロスやバイオレンスまで、様々なジャンルミックスされた映画という娯楽の満漢全席、まさにタイトル通りの“キネマの玉手箱”のような内容だ。ぜひ映画館で、反戦と平和、矛盾に満ちた人間の悲喜劇もしっかり打ち出した、巨匠のラストメッセージを受け取ってほしい。

◆3:『火垂るの墓』(1988

 言わずと知れた有名な作品であり、戦時中の幼い兄妹の悲劇の物語として受け取られている方は多いだろう。本作は“全体主義”の観点からも、非常に重要なメッセージが投げかけられていたということを、ここで提言しておきたい。

 第二次世界大戦中の日本では、お国のために一致団結する、戦争に懐疑的な者を非国民として非難するといった全体主義がまかり通っていた。しかし、14歳主人公・清太は周りの大人たちの手を振りほどき、4歳の節子と2人だけで壕で暮らすという、全体主義から反旗をひるがえすような行動をしていた。艦隊で戦っている父が生きて戻って来るという希望があったせいもあって、彼は妹の節子にただ悲しい思いをさせないために、“社会的なつながり”を自ら放棄しているように見える。

 物質的に豊かになった現代では、清太のような「みんなとは違う生き方」という選択肢も取れるかもしれないが、あらゆる情報が不足し、食事もままならない戦時中ではそうもいかない。戦争という出来事そのものよりも、「みんながこうするべきだ」という全体主義および、その正反対の行動といった、一方的で極端な考えが生きることを困難にしてしまうこともあるのではないか、そこにこそ悲劇があったのではないか……。故・高畑勲監督の着眼点は鋭く、人間の社会にある真実を捉えている。

◆4:『アルキメデスの大戦』(2019)

 三田紀房による同名マンガの実写映画化作品であり、戦争の悲劇性や小難しい話が苦手という方にも文句なしにオススメできる、万人が楽しめるエンターテインメントだ。冒頭の戦艦大和の沈没シーンは大迫力かつ映画としての“掴み”としても抜群で、戦艦の予算の虚偽を数学の天才が暴くという構図そのものが痛快であり、天才数学者だが変人で型破りな性格の菅田将暉と、初めは反発するも頼れる相棒へと変化していく柄本佑との“バディ感”も楽しい。

 時代は第二次世界大戦開戦の前であり、主人公の数学者は「日本がアメリカに戦争で勝てるはずがない」と初めから達観している。しかし、言うまでもなくこの後に日本は戦争に突入してしまうし、戦艦大和も作られ、しかも撃沈してしまう。さらに、この数学者は美しい数式により作られた戦艦を愛してはいるが、それは戦争および人殺しのための兵器であることもわかっているという、宮崎駿監督の『風立ちぬ』(2013)の航空技術者に通じる“矛盾”を抱えている。その事実と見事に折り合いをつけた決着は、カタルシスがあると共に、戦争の無情さも痛切に伝わるものであった。

 また、政府の高官が論理的な事実ではない、ほとんど“意地の張り合い”で口論をしている様は滑稽でもある。“数字”という普遍的かつ明確な証拠でもなければ、そうした権力者の短絡的な主義主張が覆ることなく押し通されかねないというのは、残念ながら現代の日本社会にも通ずる悪しき体制ではないか。社会的責任のある立場の方にも、ぜひ観ていただい。

◆5:『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019)

 2016年に公開されたアニメ映画この世界の片隅に』は絶賛に次ぐ絶賛で迎えられ、異例のロングランヒットを記録していた。すでにデジタル配信がスタートしており、9月25日よりソフトも発売される『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、そちらに50以上の新規カットを描き加えた、もはや“新作”と言って差し支えない内容である。

 加えられたことで特に大きいのは、遊郭の娘“リン”のエピソードだ。リンと主人公であるすずの関係性は親友同士というだけでなく、複雑な愛憎の感情が入り混じる、“オトナ”な印象も強くなっていく。リンの存在により、すずの心情や、その行動の印象、その前後の『この世界の片隅に』から全く変わっていないはずのシーンでもさえも、印象がガラリと変わっていく。

 『この世界の片隅に』は戦時下の困難の中にあっても、懸命に日々を生きていく人々の姿を丹念に綴っていた。この『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』では、さらに四季折々の風景や、女性としての物語が濃く描かれたことによって、さらに“あの時代の生活”を新たな視点をもって体験できるようになっている。上映時間は2時間48分と非常に長くなったが、ぜひ腰を据えて、じっくりと見ていただきたい。

◆今年公開の戦争映画たち
 2020年には、他にも第二次世界大戦を扱った映画が公開される。80歳の老婦人にかけられたスパイ容疑が広島と長崎に落とされた原子爆弾のとある事実に繋がっていく『ジョーンの秘密』は現在公開中で、アメリカ軍日本軍のそれぞれの立場を描いた『ミッドウェイ』9月11日より公開、反逆者と疑われる夫とその妻の姿を追った『スパイの妻』10月16日より公開となる。

 いずれも、戦時中の特別な事態に巻き込まれた人々の姿を描いていながらも、人間の愛憎入り交じる心理や葛藤、社会的な価値観やその問題は現代にも通ずるものとして映る。完全に同列で語るべきではないだろうが、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』での、困難な状況にあっても懸命に日常を過ごす人々の姿は、新型コロナウイルスが蔓延した世の中で生きる我々の姿にも重なるところもあった。

 戦争という過去の出来事を描いた映画は、現実の戦争のない平和な日常の幸せを噛み締められると共に、その歴史の裏にある悪しき体制を繰り返さないために何ができるか、という学びを得られることも往々にしてある。今こそ、これらの第二次世界大戦を描いた映画を観て、現実の問題にフィーバックするためのヒントも探してみてほしい。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】
インディーズ映画や4DX上映やマンガの実写映画化作品などを応援している雑食系映画ライター。過去には“シネマPLUS”で、現在は“ねとらぼ”や“CHINTAI”で映画記事を執筆。“カゲヒナタの映画レビューブログ”も運営中。『君の名は。』や『ハウルの動く城』などの解説記事が検索上位にあることが数少ない自慢。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter@HinatakaJeF



(出典 news.nicovideo.jp)


<このニュースへのネットの反応>

「ソ連の敵は右翼呼ばわりする!」というドクトリンに縛られたままな人種の言うことには何の興味も抱けない。マッカーサーですら「あれは防衛戦争だった」と公式に報告してるようなものを、未だに被害だの何だの・・・悲惨さだけ見せて現実的な防衛を考えられないようにするなら、そんなもんクソにも満たない。


火垂るの墓なー。あれ今で例えると「兄のワガママで外出自粛しなかった兄妹の妹が新型コロナにかかるが、兄は病院にも連れて行かず妹は重篤化してそのまま死亡」って事になると知ってから微妙な気持ちになるんだよなぁ


日本はGHQの反戦プロパガンダが効きすぎて、アメリカですら頭を抱えている。 教育・報道を中心に、政治・娯楽にまで及ぶ。 しかし今は、特亜の連中がこの流れを都合よく利用してる。 このまえ、「ニュースの内容は中国当局の検閲が入る」とアナウンサーが暴露してしまったし、文科省の汚染もひどくて、教科書の内容に特亜忖度が入ってる。 エンタメなんてお察し。


ヒトラー 〜最期の12日間〜は?舞台は日本じゃなくてドイツだけどあれも結構良いと思う。本気で


なぜ「第二次世界大戦を描いた映画」=日本を舞台にした映画だけなのか?それこそヒトラーを描いた映画でもいいのでは?


妹の食べ物を奪って*せてしまったのが現実、それを基にしたのが火垂るの墓。初見時、協調性を学んでる最中だったので何一つ共感できなかった。


>にゅうにゅう 8/15はほぼ日本人にとってのみ意味のある日だから多少はね?


あっこれ終戦記念日に見るやつか...そりゃ日本が舞台のやつがいいな。でも第二次世界大戦の映画だったらヒトラー 〜最期の12日間〜もいいと思う


ハーバーのおすすめ、ということで、そういうものなのだろう。


俺なら「硫黄島からの手紙」と「父親達の星条旗」を加えるな、GHQの洗脳とやらとは無縁だから安心して見れるだろう?