(福島 香織:ジャーナリスト

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 台湾総統に再選した蔡英文の就任式が5月20日に行われ、正式に2期目政権がスタートした。

 就任演説はインターネットでもライブで配信された。注目の中国との関係については「和平、対等、民主、対話」の8文字を改めて強調し、「北京当局が一国二制度によって台湾を矮小化し、台湾海峡の現状を破壊することは受け入れらない。これは我々が断固として変わらずに堅持する原則である」と、中国の一部になることを完全に拒否。憲法改正や国名変更という、中国が台湾武力統一に動くとされる「最後の一線」はさすがに超えなかったが、かなり強気の内容だ。

 中華民国憲法については引き続き順守し、「両岸人民関係条例をもって両岸事務(中台関係)を処理する」として、中台関係の現状維持を望む姿勢を示した。経済については、米、日、欧州との貿易、投資保障協定を努力目標に挙げ、中国依存脱却の方向性を打ち出した。

ポンぺオ国務長官が異例の祝賀メッセージ

 今回の蔡英文政権2期目就任式で、最大の注目点は米国のポンペオ国務長官が祝辞を送ったことだろう。5月19日、米国在台湾協会(AIT)を通じて発表され、ほぼ同時にポンペオ長官自身のツイッターの公式アカウントでも発表された。

 米政府高官が台湾総統の就任式に公式のメッセージを送ったのは初めて。しかもその内容が興味深い。メッセージを訳してみよう。

蔡英文博士が2期目の台湾総統任期を開始するにあたりお祝い申し上げます。彼女の大差をつけての再選は、彼女が台湾人民の尊重と敬服と信任を得ていることを示しています。台湾の活気ある民主主義を導く彼女の勇気とビジョンは、地域と世界にとっての励みです。

 米国は長きにわたって台湾を、世界の幸福のための力であり頼りになるパートナーだと認めてきました。米国が台湾を支持することは両党の一致するところであり、最近“台北法”が可決されたことでも、この一点が証明されました。この法案は我々全体の関係を強化し、同時にさらに緊密な経済パートナーシップの建設を支えることでしょう。私たちは、法の支配、透明性、繁栄、すべての人のための安全保障を含む地域のためのビジョンを共有しています。最近の新型コロナウイルスの感染爆発は、台湾の感染への対応モデルが模範に値するものだということを国際社会に知らしめる良い機会を提供しました」

「舵をとるプレジデント蔡とともに、台湾とのパートナーシップは繁栄し続けていくだろう」という一文もあり、呼びかけの敬称こそDr.(博士)ではあるが、蔡英文プレジデント扱いし、はっきりと台湾を米国の頼りになるパートナーと言及した。米国の台湾に対する関係の踏み込み方は、星島日報など香港メディアも「尋常ではない」と報じている。

 だが、決して意外なことではない。なぜなら、米国と中国の対立が先鋭化する中、台湾を米国のパートナーとしてしっかりつかんでおくことが、この先、大統領選を目前とした米国の内政にとっても、世界の5G覇権競争の雌雄を決するという意味でも、鍵となるからだ。

台湾をWHOから弾き出した中国

 トランプ大統領が秋の大統領選挙で苦戦を強いられる要因となるのは、新型コロナウイルスへの対応に対する世論の判断だ。新型コロナウイルスベトナム戦争を超える死者を出し、リーマンショックはるかに超える大不況をもたらすとの予測が流れている。その責任をトランプ政権が負うのか、それとも「ウイルス発生源」であり、初期に重大な隠蔽をした中国、その中国のいいなりになって隠蔽に加担したWHOに負わせることができるのかが、1つのポイントになる。

 トランプとしては、中国政府の隠蔽とWHOの機能不全がパンデミックの最大の責任を負うことになるという国際世論を形成したい。だからこそ、WHOから弾き出されながらも、その政治的リーダーシップで感染を最短最低限の流行で抑え込んだ台湾蔡英文政権を強く支持する意味がある、というわけだ。

 台湾はたとえ国家として国際機関に承認されていなくとも、人道的な観点からはWHOへの参加は当然認められてしかるべき話だ。実際、2016年までは認められてきた。今、中国がかたくなに台湾のオブザーバー参加に反対しているのは、蔡英文政権だからだ。だが、蔡英文政権は公平公正な民主選挙で選ばれた政権である。それを理由に拒否するとしたら、WHOは政治的理由で2300万人の健康と安全を見捨てる、ということである。

 5月18日に開幕した世界保健機関WHO)の最高議決機構(WHA)の年次総会(オンライン会議)で、米保険福祉省長官のアザールは2分の持ち時間の意見表明のなかで25秒を使って、こうしたWHOの台湾排除の問題点を訴えた。

 結果的には総会で、台湾のオブザーバー参加への審議は中国の強い意向によって延期された。同時に、総会の開幕式のとき、習近平オンラインで短い演説を行い「今後2年にわたり、WHOを通じて世界の貿易努力をサポートするために20億ドルを支援する」と表明したことはあまりにあからさまだった。結局、WHOチャイナマネーに手懐けられ中国の宣伝機関に成り下がっているということが露呈した。

 ちなみにこの夜、トランプテドロス事務局長に送った書簡の中身をぶちまけていた。「もし、WHOが30日以内に実質的に改善できないのであれば、米国はWHOに対する拠出金を恒久的に停止、米国もWHO脱退も考えている」。

 台湾は2019年12月末の段階で、中国でSARSのように人-人感染を伴う感染症が起きている可能性について警告の書簡をWHOに送っていた。だが、WHOはこれをまともに受け取らず、中国の報告を鵜呑みにして1月19日まで人-人感染の証拠はないという立場を維持していた。このことが、その後のパンデミックにつながったのではないか、という疑いは各国の専門家たちも持っている。

 中国の政治的立場を忖度するあまりに台湾を排除し続け、結果的に世界中の人々の健康と生命を危険にさらしたとしたら、WHO自身がWHO憲章を裏切ったことになり、その存在意義はなくなってしまう。そしてWHOと関係ない台湾が、世界に先駆けて感染を鎮静化させたのだったら、台湾の予見と判断はWHOより正しかったのだ。台湾の知見が共有できる新しい保健衛生機関があれば、そちらの方が世界に貢献できそうだ。

半導体が左右する5G覇権競争の行方

 台湾が米国にとって鍵となるもう1つのテーマは、5G覇権競争だ。

 中国はポストコロナの経済復興シナリオの中心に、通称「新基建」と呼ぶデジタルインフラ建設投資を中心に置いている。すでに本コラム(「『新基建』政策でコロナ後の世界を牛耳る中国の野望」)で説明したが、5G基地局建設を中心にした壮大な産業構造変化を見込んだシナリオだ。だが、このシナリオを遂行する最大の難関は半導体の国産化だ。中国の半導体国産化は2018年半ばで15%程度、目標値としては今年中に自給率40%達成、2025年までに70%を達成するとしている。だが、中国の国産チップメーカーで一番期待されている長江ストレージ(YMTC)が執念を燃やすも、目標到達はかなり困難な道のりだ。

 その間、ファーウェイはじめ5G基地局建設を支える中国IT企業の生命線は、世界最大の半導体ファウンドリ、TSMC(台湾積体電路製造有限公司)に握られることになる。だが米国は5月15日、米国製の製造装置や技術を使って海外で生産・開発された半導体製品を、ファーウェイに販売することを規制する決定を発表。昨年5月の規制では、米国部品の使用料が25%以下であれば、輸出できたが、それもできなくなった。TSMCもやむなくファーウェイからの新規受注を停止せざるを得なくなった。

 その代わり、なのか、米政府の120億ドルの支援で、アリゾナへのTSMC工場誘致が発表されている。これは米政府のファーウェイ潰しとして、大きく報道されているが、同時に台湾経済の中国依存を米国依存に替えていこうという蔡英文政権の意向に沿ったものでもあるだろう。

 台湾の企業も有権者も、米中新冷戦構造の中でどちらかを選ばねばならない時代の転換期にきているという意識をもっている。その問いかけで出した答えが、蔡英文の再選であり、TSMCの決断だということだ。

 実際、TSMC関係者が、今回の米国での工場建設について、「米国で生産する場合人件費は割高で、コストも高くなるし市場競争力も落ちるだろうし、けっして良いビジネスではない」と台湾メディアコメントしている。だが、いかなる企業も「政治的要素を考慮しない決策はありえない」という。

 噂によると、TSMCの内部では、中国のサプライチェーンから脱却して米国に乗り換えるのは投資効率が悪いため抵抗があったが、蔡英文がTSMC幹部らと密会し頼み込んだことで最終的に決断した、という。もちろん蔡英文サイドはこの噂を完全否認している。だが、蔡英文とTSMCの創始者・張忠謀の仲がいいことは周知の事実であり、多くの人々がまんざらフェイクニュースでもないと見ている。

米国と台湾、本気のタッグで中国に対抗

 蔡英文は就任演説で、経済戦略として六大核心戦略をあげ、その筆頭に「半導体と通信産業の優勢を利用して、世界サプライチェーンの核心的地位を築く」ことを掲げた。また「5Gと結びついた発展」と「国家安全、サイバーセキュリティ」を挙げ、「自らを守り、世界に信頼される、セキュリティシステムと産業チェーン」を発展させる、としている。

 さらに「誰が依存から脱却できるか、誰が国家の製造発展のチャンスを先につかむか。すべての産業界の友人に安心してほしい。政府は産業を孤立させない。この先数年、私には戦略がある」と述べている。どんな戦略かは後々にわかるだろうが、全体のニュアンスとしては、半導体産業を最大の武器にして、「国家安全、セキュリティ」を重視したサプライチェーンの再構築を見越しているようでもある。わざわざ国家安全に言及しているということは、そのサプライチェーンの中心に中国はいない、と推察される。

 5G覇権戦争の行方は正直まだ不明だ。個人的には米国サイドの勝利を祈っているが、中国も米国からの半導体部品供給が絶たれることは昨年から覚悟して、かなり半導体の在庫を積み上げているともいわれる。必要は発明の母ともいわれる通り、米国からの兵糧攻めで、むしろYMTCの半導体国産化スピードは加速している。

 だがここで注目したいのは、米国と台湾が本気でタッグを組んで、中国に相対する姿勢をみせたということだろう。

 米国はWHOからの離脱までほのめかせて台湾を擁護し、台湾を含めた新たな国際社会の枠組みを構想し始めているようだ。台湾も経済界を含めて中国依存からの脱却を選択し始めている。トランプ11月大統領選に負ければ、台湾の未来も道連れになるやもしれない。それでも、台湾の有権者が選んだ政権は、米中が対立した場合、自由と民主を共通の価値観として持つ米国を選択するという意思表示を見せた。

 習近平政権の恫喝に追い詰められた結果とはいえ、この台湾の潔さと勇気は、日本の政治家や財界人もちょっとよく見てほしい。

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2期目の就任式で演説をする台湾の蔡英文総統(2020年5月20日、提供:Taiwan Presidential Office/AP/アフロ)


(出典 news.nicovideo.jp)


<このニュースへのネットの反応>

運命共同体()なんかよりこっちチームに入らなければ日本に未来はない


台湾は正しい人を選んだな。もう一人の中国の手先を選ばなかったのだから。


日本もそのタッグに混ぜてー


これ日本はぼーっと眺めてないで台湾とアメリカの間に入って仲を取り持つべきやね 近い将来必ず対中国の基盤になるから今のうちに存在感を発揮しとかんと


香港、コロナと続いたからこの姿勢は今後20年は変わらなそう


在台米軍を復活させるにも台湾の国力を過小評価するわけではないですが、とにかくお金がかかる。その時に日本が台湾に何の協力もできなければ恥をかきます。それに在韓米軍の駐在費を捻出できなくなった韓国はまともな脳みそが残ってるなら早晩ベトナム戦争のように軍事力提供を申し出るでしょう。そうすると改憲すらままならない日本の発言権は弱まるし、ただのお財布と見られてしまう。


このままだと日本は台湾に助けて貰ってばかりだぞ、助けて貰ったのに動かないなんて韓国と同じ…そんな誇りのない国だったのか日本は


E U、日本 ベトナムなどのアジア、も手を組み、ロシアも味方につけたい


先の戦争で敵だった米国が、今は戦中の日本と同じような立場で台湾国を支えている。本来は日本が進んでやらなきゃいけない立場だと思うと、今の日本の情けなさを痛感する。


すみません、日本も入れてください・・・(ってか、日本がやれ!)


乗るしかないだろ!このビッグウェーブによ!


東アジアのメンツ見渡してみても、台湾が居てくれることがどれだけありがたいことか。


こっちに混ざるべきだろ明らかに・・・日本政府マジで行動しろよ。中・韓とかみたいな嘘を平然とついて騙される方が悪い、自分たちの利益になれたんだから感謝しろみたいな奴等と付き合う必要性は皆無だっての。中・韓からは離れてこっち入るって早く行動しろ!!


黄金タッグと地獄の特亜組を比べるなよ…台湾様に失礼だろうが。いやほんと、日本も入れてくださいおねしゃす!


日本「なになに?米台仲良さそうじゃん?混ぜてよ♡」


いや、マスゴミが報道しない自由! してるだけで、日本は真っ先にWHOに台湾呼べよとか今回が落ち着くまでは金出すけど台湾呼ばなかったら分かってんな? とかやりまくってゾ


辞める時期が近いとはいえ日本もWHOを抜けるとか台湾に協力する姿勢を見せてもいいと思う


日本何やってんだよ。中華の顔いろなんて伺ってないではよ参加しろ。まあ言うても親中派の議員が黙ってないんだろうけどなw早く除染せんとな。二階とかw二階とかw二階とかw


我が国は反浸透法を制定し親中派を一掃し、米国と連携し台湾との国交樹立、日米台同盟を締結するべき。


タッグどころか太平洋大同盟組んでいいと思うよ


魚雷(核弾頭積めないとは言って無い)獲得おめでとうございます。


日本も絶対にこの枠組みに入りたいが、まず親中議員を選挙で一掃が必須。とりわけ和歌山県民さん、なんとかならんかね。


こう言う肝心なところで日本の外務省は無能なんだよな。英国・EUに声を掛けて合同すれば国際社会の信用を勝ち取れるのに。