(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)
アメリカ大統領選挙から2週間が過ぎた。全州の勝敗も確定した。結果は、選挙人の獲得数が306対232で民主党候補のバイデン前副大統領の勝利だ。
だが、現職のトランプ大統領は、敗北をいまだに認めていない。
選挙に不正があった、というのがその理由だ。
新型コロナウイルスの蔓延の影響で増えた郵便投票の結果に嘘があるだの、多くの州で多数の投票立会人が投票集計室から追い出されただの、ついには集計システムの機械に不正があっただの、その言い分はいろいろある。それで各地で訴訟も起こしている。
要するにトランプの主張は、不正に得票数が操作されたことによって、それで俺は負けたことになっている、だが本当は勝っているはずだ、というものだ。そのための言い訳を探っているようにすら見える。
その態度を知るにつれ、私の脳裏には前代未聞のテロ事件を引き起こした首魁の姿が浮かんで仕方がない。
選挙の敗北を認めようとしない態度と主張は、オウム真理教の教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)元死刑囚とまったくいっしょなのだ。
麻原彰晃が本気で信じていた自分の「トップ当選」
ちょうどいまから30年前。日本のバブル経済といっしょに訪れた新興宗教ブームの波にのって、オウム真理教も急成長していく。その勢いで、麻原は1990年の総選挙に立候補する。「トップ当選する」と予言して。
という独特のメロディで自分の名前を連呼し、象や教祖のかぶり物をして、妙齢な女性たちが選挙カーの上で踊る。そんな一風変わった選挙活動なら、記憶している人も少なくないはずだ。
本当に選挙で当選するつもりはなく、むしろ選挙を利用して教団を宣伝することに目的があるのではないか、とすら私は思っていた。
結果は落選。トップ当選の予言も外れた最下位。すると教祖はテレビのインタビューに応じて、怒りを顕わにした。本人は本気で当選するつもりだったらしい。
その後の一連のオウム裁判の中では、この時のことについて触れた証言もあった。麻原といっしょに死刑なった早川紀代秀の公判で、古参幹部がこう証言している。
「選挙に落ちた時は、トップ当選すると予言していたのに最下位に終わり、どう取り繕うか、難しい問題だった。その時には、上祐もいましたし、私もいましたが、いつの間にか、票の入れ替え、それもフリーメイソンが自動的に票を書き換える機械を使って、票の書き換えをしたことになっていた。だから、『本当は当選したんだ! どれだけ自分に票を入れたか調べればわかる!』と言い出した。対外的にはともかく、信徒だけ納得すればいいわけですから」(1998年11月26日)
トランプ陣営は昨今、全米のおよそ半数の州で採用された「ドミニオン」という集計ツールが数百万票を削除した、と言い出して機械のせいにしている。
「選挙での敗北」のショックが麻原を狂気へと駆り立てた
そうでなくても、当時の麻原の言いぐさはいまのトランプと全く同じだ。
そのトランプは選挙直後から公の場で発言することを避けるようになった。
麻原も落選後は選挙期間中のような派手な活動はなくなった。むしろ、世間を遠ざけるように、沖縄県の石垣島に信者を集めてセミナーを開いている。
ところが、この石垣島の滞在中に、富士山の麓の教団施設では猛毒のボツリヌス菌を培養して、そのまま大気中に撒き散らしていた。そのための避難先が石垣島だった。
選挙に落ちて、自分が否定されたと感じた麻原は、ここから教団の武装化をはじめる。幸いボツリヌス菌は完成しなかったが、やがてサリンの生成に成功すると、これが世界を震撼させた地下鉄サリン事件へつながっていく。
死刑判決の下った麻原の一審判決にはこうある。
「被告人は、自分が解脱したとして多数の弟子を得てオウム真理教(教団)を設立し、その勢力の拡大を図ろうとして国政選挙に打って出たものの惨敗したことから、今度は教団の武装化により教団の勢力の拡大を図ろうとし、ついには救済の名の下に日本国を支配して自らその王となることを空想し・・・」
その麻原について、慶応大学病院勤務もある元医師で、地下鉄にサリンを撒いて地下鉄職員2名を殺害しながらも自首が認められて無期懲役となった林郁夫服役囚は、公判の中でこう分析している。
「自己愛的人格障害」
自己愛的な人間は、自分は非常に優れていて素晴らしく特別で偉大な存在である、と思っていることからはじまる。これが現実の自分と一致していれば、それはそれで素晴らしい人物でいられる。人を惹きつける魅力的な人物にも見える。ところが、そうでないとなると、あるいは現実と不一致の出来事があると、激しく怒るか、ひどく落ち込むか、あるいは抑鬱的になる。
麻原が犯罪に走ったのも、自己愛の激怒だ、と林服役囚は言った。傷つけられたと感じた時、状況の逆転で受けた傷を返してやらないとおさまらない。
テロ事件の首謀者と現職の大統領をいっしょにするつもりはないが、それでもトランプにもこの自己愛的人格障害の傾向があるように見受けられる。
「大統領選敗北」を突き付けられた途端、安全保障面で次々重大決断するトランプ
偉大なはずの自分に不都合な現実が突き付けられたとき、その現実を遠ざけようとする。受け入れられない。しかも、トランプには熱狂的な支持者、というより信者がまだ大勢いる。自分はヒーローでなければならない。
トランプ大統領は、12日にイラン攻撃について側近と協議したと報じられている。イランの核関連施設への攻撃の選択肢について言及し、ペンス副大統領やポンペオ国務長官らが大規模な軍事衝突につながりかねないとの懸念を示し、大統領を思いとどまらせたという。
17日には、米国土安全保障省傘下のサイバー・インフラ安全局(CISA)のクリス・クレブス局長を更迭した。CISAは、今回の大統領選について「投票システムによって票が失われたり、改ざんされたり、不正侵入されたりした証拠はない」という見解を12日に発表していた。
選挙直後の9日には、エスパー国防長官を解任している。白人警官による黒人男性死亡事件を受け、全米で広がった抗議デモに、米軍の投入を主張したトランプに反対していた人物だ。選挙に負けた腹いせのようだ。
麻原も気に入らない相手は、宗教言語から引っ張りだした“ポア”という言葉を利用して、次々と殺していった。
命まで奪わずとも、排除することに変わりはない。
今後、どのように政権移行が果たされるのか、まだ見えてこないが、少なくともいまの状況は、不気味である。
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(出典 news.nicovideo.jp)
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