8月5日、米国のトランプ大統領は、米国内にあるベネズエラ政府所有の全資産を凍結する大統領令に署名し、米国企業との取引を全面的に禁止した。ベネズエラのマドゥロ大統領の独裁体制に一層の圧力を強め、一気に退陣に追い込もうという狙いだ。

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 経済危機に直面するベネズエラを巡っては、これまでもマドゥロ政権を支援するロシアや中国と、野党指導者のグアイド国会議長を暫定大統領として支持する米国、ブラジルコロンビアが対立してきたが、今回、米国が打ち出した経済制裁の真の目的は、ベネズエラの背後にいるロシアと中国を強く牽制することにある。

中国企業が買収したアメリカの超高級ホテル

 米中貿易戦争はエスカレートするばかりだが、ニューヨークではその典型例として、ウォルドルフ・アストリア・ホテルの大改装が金融界の注目を集めている。

 1893年に創業したウォルドルフ・アストリア・ホテルは、かつて歴代アメリカ大統領や各国の国王、アラブ石油王などが数多く宿泊する世界有数の名門ホテルとして威風を誇り、米国の富と権力の象徴であった。42階のスイートルームは米国政府が借り上げ、米国の国連特命全権大使の公邸として使われたほか、アイゼンハワー大統領やフーヴァー大統領ダグラス・マッカーサー元帥、エリザベステイラー、ヒルトン一族など有名人が自宅として使っていたこともある。

 それが中国に買収されたのは2014年。中国の保険会社、安邦保険集団の経営者・呉小暉がアメリカ史上最高額の19億5000万ドルで買収した。米国政府は盗聴器がしかけられている可能性があると警戒し、それ以後は拠点をプラザホテルに移した。

 ところが2018年、呉小暉が汚職容疑で逮捕され、同社は中国政府の管理下に置かれて国営企業になった。米国では、中国政府が当初から目論んだ筋書通りに運んだ結果だとみる向きが多い。いわば米国の心臓部に中国が食い込んだ形である。

 現在の改装計画では、ホテルの大半をコンドミニアムに作り変えるというもので、買収当初からの予定だとされているが、長期的なホテル経営で収益を上げるよりも、コンドミニアムとして一度に販売して、速やかに投資資金を回収しようとする中国式「ヒットエンド・ラン」の発想だ。歴史的に政情不安がつきまとう中国では、未来は予測不能だから、儲けられるときに儲けようという強い危機意識の表れでもある。それに加えて、米国の投資銀行の大方の見方は、折からの米中貿易戦争でいよいよ外貨不足に陥った中国が、あちらこちらから急いで外資をかき集めている表れではないかと分析する。

米中激突で近づく「第三次世界大戦」

 ニューヨークエコノミストのひとりは、米中貿易戦争が新たなフェーズに入ったとして、強い危機感を募らせる。関税引き上げ競争に加えて、為替競争という通貨戦争が始まったからだ。

第一次世界大戦を思い出してください。当時、敗戦国のドイツポーランドに対して、戦勝国は過剰な戦争賠償金を課した。その一方、戦勝国側でも、それまで世界に君臨してきた『パクス・ブリタニカ』が衰退して、米国が台頭してきた。しかし、『パクス・アメリカーナ』は順調に進まず、そうこうするうち1929年のニューヨーク発の金融大恐慌が起こった。米国は金平価の切り下げを行って輸出攻勢に出た。その結果、世界の国々は通貨切り下げ競争に走り、とりわけ為替圧力を受けた敗戦国・ドイツでは不満が一挙に爆発してヒットラーを生み出し、第二次世界大戦に突入したのです」

「現在は同じ構図になっています。トランプ政権のしかけた米中貿易戦争は、世界のIT覇権をかけた熾烈な競争ですが、米国がしかけた経済制裁で、関税引き上げには同じ関税引き上げで対抗してきた中国が、先日、人民元安へかじを切ったことです。これに対して、米国は中国を『為替操作国』に指定してブラックリストに載せました。

 追い込まれた中国の次の一手はなんでしょうか。外貨準備高の60%以上を占める米国国債を売ること以外に、打つ手はないでしょう。しかしこれは『両刃の剣』なのです。短期国債ならまだしも、長期国債を売り払えば、両国に深刻なインフレをもたらし、世界経済に大きなダメージを与えることにも繋がります。第三次世界大戦の入り口に一歩近づいたと言っても大げさではありません」

「貿易戦争」に「通貨戦争」が加わった結果、米中対立はさらに緊縛の度を増し、もはや予断を許さない段階になったというのである。

 ところで、冒頭にあげたベネズエラへの経済制裁だが、米国の制裁対象国はこれで北朝鮮キューバイランシリアスーダンに次いで6カ国目(2019年8月現在)。米国財務省の外国資産管理室(OFAC)による米国内資産凍結に至っては、キューバイランイラク北朝鮮スーダンシリアジンバブエベラルーシイエメンソマリアリビア、コンゴ民主主義共和国、ロシアベネズエラレバノンなど15カ国と4地域、26件にも及ぶ。

 また、国際連合欧州連合が課す経済制裁は、北朝鮮ジンバブエベラルーシロシアの4か国だ。日本の対韓国輸出品優遇取り消しも、経済制裁の一種だろう。21世紀の世界で、これほど経済制裁の嵐が吹き荒れるとは、いったい誰が想像しただろう。

 現代の価値観では、戦争を「絶対悪」だとみなし、経済制裁は戦争よりも「善」だと受け止められているが、果たしてそれは本当に正しいのだろうか?

「戦争は善」だった時代

 実は、かつて世界では、「戦争は善」だと考えられていた時代がある。欧米列強が世界を支配していた二十世紀前半までのことだが、強大な軍事力をもつ欧米諸国はアジアアフリカ、南米の国々に戦争をしかけ、他国の豊かな資源を奪い続けてきた。そうした時代には「戦争は当然の権利」であり、国際ルールの上で「違法行為」とは規定されていなかった。無論、それは「勝者の論理」だ。

 その共通認識がようやく見直されたのは、第一次世界大戦の終結後のことである。ヨーロッパ諸国はどこも国土が荒廃し、経済不況にあえぎ、人々は戦争疲れで辟易していた。

 1928年、フランスアメリカが主導する「パリ不戦条約」が締結され、「戦争は違法行為である」という画期的な国際ルールを生み出した。「今後は世界の国々を対等な関係とみなし、積極的に国際貿易を行おう」と定めたことが、『The Internationalists How A Radical Plan To Outlaw War Remade The World』(オーナ・ハサウェイスコット・シャピーロ著、邦訳は『逆転の大戦争史』文藝春秋社)に詳述されている。

 だが、罰則規定を作る段になって議論が白熱した。もし新国際ルールを破って戦争をする国があったら、どう処罰すればよいのか? もし武力で罰すれば、また戦争になってしまう。それでは戦争を違法行為だと定めた意味がない。知恵を絞った末にたどり着いた答えが「経済制裁」だった。「新国際ルールを破って戦争をはじめた国に対しては、経済制裁を課すことにしよう」と取り決めたのだ。このときから、「戦争は悪」であり「経済制裁は善」であるというのが、世界の共通認識となったのである。

 だが、それから91年の歳月が流れた。21世紀の今日では、経済制裁が乱発されて目に余るほどだ。厳しい経済制裁は対象国を罰するのと同時に、その国の人々を貧困に陥れ、飢餓の苦しみから暴動さえ誘発して、多分に暴力的である。第三次世界大戦すら視野に入れなければならない世界情勢の中で、そろそろ「経済制裁」を制限するための新たな国際ルール作りが求められているのではないだろうか。

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(出典 news.nicovideo.jp)


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<このニュースへのネットの反応>

戦争も経済制裁も外交の一手段である。経済制裁を含むあらゆる外交手段を通して相手国との問題が解決できない場合に最終手段として武力行使(戦争)が行われる。そしてそれらはその国の主張する正義によって行われる。ゆえに戦争と経済制裁のどちらが悪ということは断じることはできない。


「戦争は悪」であり「経済制裁は善」>経済制裁には直接的には人命・国費の浪費・消耗が存在しない。核兵器を保有する国があって腕力で相手をネジ伏せるコトが許されたなら最低限の論理性が失われる戦争。経済制裁は善では無く、戦争と言う実力行使よりマシなだけ。では他に何か国家間の争いを収める手立てはあるのか?その国家指導者同士だけで異種弁論大会するのか殴り合うか。


まあまず北朝鮮に文句言った方がいいね。この筆者の理屈で緩めにしてたら大量破壊兵器の製造を進めていったことでみんな懲りたわけだから。


共産主義が悪であり人類の敵


まあ、主戦場が国内か国外かで判断は違うと思いますけどね。判断材料として、旧日本は防衛(特に空襲)に弱かった。米国は南北戦争以後は自国内で戦った事はない。中国は元以後外征はやってない(朝鮮は属国だから国内戦)。ロシアは内戦・外征と両方やっている(してない時が少ない)w。


自国民を痛めつけている共産主義者が悪いよ


戦争と経済制裁。すぐ*かじわじわ*か、大量無差別に*か限定的に*かの違い。


いやいやベネズエラは完全に自己責任案件やろ・・・何で他国のせいになるんや?こう言っちゃあアレやけど北朝鮮への経済制裁より至極真っ当な理由で制裁を加えられてるのがベネズエラやぞ・・・


正直に本音書いちゃえよ。「韓国への優遇撤廃やめて」って。バレバレよ


戦争も経済制裁も、「手段」であって善悪じゃないし、そもそもどっちも当事者にしてみれば必要があっての「正義」に従って実行されるわけで


うんそうだね。チョン国滅ぼしたあと着手しよう


自国民の死者がより少ない方法としての経済、金融による戦争を選択しとるだけで、その行為に大して差は無いが、核戦争を始めると連鎖的に短時間でゴッソリ逝くというリスクよりはマシ。


もう言われてるけど手段・方法。戦争に自衛も侵略もあるなら経済制裁にも自衛的なものと挑発的なものがある。まぁ国際法に照らし合わせて明らかに自衛の紛争相手に仕掛ける経済制裁なんて敵国加担に違いないけどね。


「経済制裁」を制限するための新たな国際ルール→それを求めているのは制裁されてる側だけでしょ。そもそも制裁を受けるような状況を解決するアイデアを出す方が先だな。先に「悪事」を働いたのは制裁されてる側だ。


まだ日本の対応を経済制裁と言い張るような記者だしなあ。